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基礎知識

トランス脂肪酸とは?リスクと避け方

トランス脂肪酸と油選びのイメージ

はじめに ── 「トランス脂肪酸」、名前は聞くけどよくわからない

「マーガリンは体に悪い」「ショートニングって何かやばいらしい」── SNSでそんな投稿を見たことはありませんか。その正体として名前が挙がるのが「トランス脂肪酸」です。WHOは世界各国にこの脂肪酸の摂取を減らすよう呼びかけ、アメリカやEUではすでに厳しい規制が敷かれています。

一方で、日本には表示義務も含有量の基準値もないのが現状。「海外では禁止なのに日本は大丈夫なの?」と不安になるのも当然です。

この記事では、農林水産省・厚生労働省・食品安全委員会の公式資料、そしてWHOの評価をもとに、トランス脂肪酸の何が問題なのか、日本人はどの程度リスクがあるのか、日々の食事でどう気をつけるべきかを丁寧に解説します。

そもそもトランス脂肪酸って何?── 化学構造のちがい

「シス型」と「トランス型」

前回の記事で、油は「脂肪酸」というパーツでできているとお伝えしました。脂肪酸のうち、炭素と炭素が「二重結合」でつながっているものを「不飽和脂肪酸」と呼びます。この二重結合の部分で、水素原子(H)がどちら側についているかによって、脂肪酸の形がまったく変わります。

水素原子が二重結合の同じ側についているのがシス型。自然界にある不飽和脂肪酸の大半はこのシス型で、分子の形が「く」の字に折れ曲がっています。

一方、水素原子が二重結合の反対側についているのがトランス型。こちらは分子がほぼまっすぐな形をしています。

農林水産省の解説では、「トランス型の二重結合が一つ以上ある不飽和脂肪酸をまとめて『トランス脂肪酸』と呼んでいます」と説明されています(参照:農林水産省「すぐにわかるトランス脂肪酸」2025年5月更新)。

かみくだいて言えば

脂肪酸の「曲がり方」がふつうと違う、いわば "形のイレギュラー" な脂肪酸。この形のちがいが、体の中での振る舞いを大きく変えてしまう──それがトランス脂肪酸です。

トランス脂肪酸はどこから来るのか──「天然」と「人工」の2つのルート

ルート1:天然にできるもの

牛や羊など、胃が複数ある動物(反芻動物)の体内では、胃の中にいる微生物の働きによってトランス脂肪酸が少量つくられます。そのため、牛肉、羊肉、牛乳、バター、チーズなどの乳製品にはもともと微量のトランス脂肪酸が含まれています。

ただし、天然由来のトランス脂肪酸については、通常の摂取量で冠動脈性心疾患のリスクと関連するという決定的な証拠は現時点ではありません(参照:農林水産省「トランス脂肪酸の摂取と健康への影響」2025年1月更新、WHO 2009年科学的知見の更新に基づく)。

ルート2:油脂の加工・精製でできるもの(こちらが本題)

多くの場合に問題視されるのは、工業的な加工の過程で生まれるトランス脂肪酸です。主に以下の2つのプロセスで発生します。

水素添加(すいそてんか) …… 常温で液体の植物油に水素を加えて、固体や半固体にする加工技術のことです。こうすることで、液体の油をマーガリンやショートニングのように固い油脂にすることができます。この水素添加の過程で、もとのシス型の脂肪酸の一部がトランス型に変わってしまいます。農林水産省は「部分的に水素添加した油脂を用いて作られたマーガリン、ファットスプレッド、ショートニングや、それらを原材料に使ったパン、ケーキ、ドーナツなどの洋菓子、揚げ物などに、トランス脂肪酸が含まれているものがあります」と説明しています(参照:農林水産省「すぐにわかるトランス脂肪酸」)。

高温での脱臭処理 …… 植物油を精製するとき、においを取り除くために高温で加熱する工程があります。この高温処理でも、微量のトランス脂肪酸が発生します。サラダ油などの精製植物油に微量のトランス脂肪酸が含まれていることがあるのは、このためです。

なぜ体に悪いのか──LDLを増やし、HDLを減らす「ダブルパンチ」

悪玉コレステロールと善玉コレステロール

まず用語を整理します。

LDLコレステロール(いわゆる「悪玉」) …… 血液中のコレステロールを全身に運ぶ役割がありますが、増えすぎると血管の壁にたまり、動脈硬化(血管の内側が狭く硬くなる状態)の原因になります。

HDLコレステロール(いわゆる「善玉」) …… 血管の壁にたまった余分なコレステロールを回収して肝臓に戻してくれる、いわばお掃除役。多いほうが望ましいとされています。

トランス脂肪酸が起こすこと

トランス脂肪酸を日常的に多く摂り続けると、LDLコレステロールが増え、HDLコレステロールが減るということが、複数の研究で一貫して示されています。これは飽和脂肪酸(バターやラードに多い脂肪酸)よりもさらに悪い影響です。

農林水産省のページにはこう書かれています。

「代謝研究で、トランス脂肪酸は血液中のLDLコレステロールを飽和脂肪酸と同様に増やすだけでなく、HDLコレステロールを減らすため、飽和脂肪酸よりも血液の脂質プロファイルをアテローム性(動脈硬化などの原因となる)に変化させることが示されている。」(農林水産省「トランス脂肪酸の摂取と健康への影響」、WHO/FAO合同専門家会合2003年報告書に基づく)

「アテローム性」とは、血管の壁にコレステロールなどの脂肪のかたまり(プラーク)がたまっていく状態のこと。これが進むと血管が詰まり、心筋梗塞や狭心症といった心臓病のリスクが高まります。

つまりトランス脂肪酸は、「悪玉を増やして、善玉を減らす」というダブルパンチで、心臓病のリスクを押し上げるわけです。

厚生労働省の見解

厚生労働省の「トランス脂肪酸に関するQ&A」でも、「平均的な日本人より多いトランス脂肪酸摂取量を基にした諸外国の研究結果によると、トランス脂肪酸の過剰摂取により、心筋梗塞などの冠動脈疾患が増加する可能性が高いとされています。また、肥満やアレルギー性疾患についても関連が認められています」と記載されています(参照:厚生労働省「トランス脂肪酸に関するQ&A」)。

WHOの勧告──「総エネルギーの1%未満に」

WHOは2003年、食品からとるトランス脂肪酸の量を総エネルギー摂取量の1%未満にするよう勧告しました(参照:農林水産省「トランス脂肪酸に関する国際機関の取組」2024年11月更新)。

日本人の1日の平均的なエネルギー摂取量を約1,900kcalとすると、その1%に相当するトランス脂肪酸の量は約2gです。これが一つの目安ラインと考えてよいでしょう。

さらにWHOは2018年、加工食品の製造過程で生まれるトランス脂肪酸を世界的に排除するための行動計画「REPLACE(リプレイス)」を発表。各国政府に対して、2023年(のちに2025年まで延長)までに対策を講じるよう求めています(参照:農林水産省「トランス脂肪酸に関する各国・地域の規制状況」2025年10月更新)。

WHOの2009年の科学的知見の更新では、さらに踏み込んだ表現がなされています。

「部分水素添加油脂に由来するトランス脂肪酸は、健康への便益が無いことが立証され、明確な健康リスクのある、工業的な食品添加物と見なすべきである。」(農林水産省「トランス脂肪酸の摂取と健康への影響」掲載のWHO評価より)

「健康への便益がない」「明確な健康リスクがある」── つまり、摂る必要がまったくないのに害はあるということ。だからこそ世界中で規制が進んでいるわけです。

各国の規制はどうなっている?── アメリカ、EU、そして日本

アメリカ:部分水素添加油脂の使用を全面禁止

アメリカは2006年から加工食品へのトランス脂肪酸含有量の表示を義務化し、2021年1月からはすべての食品において部分水素添加油脂(PHO)の使用が禁止されています(参照:農林水産省「米国」2025年5月更新)。ただし、天然由来のトランス脂肪酸だけを含む油脂や飼料は規制の対象外です。

EU:脂質100gあたり2g以下の上限値

EUでは2021年4月から、消費者向けに販売される食品中のトランス脂肪酸(天然由来のものを除く)を脂質100gあたり2gを超えないようにする規制が施行されています(参照:農林水産省「トランス脂肪酸に関する各国・地域の規制状況」)。

その他の国々

農林水産省のまとめによれば、WHOの報告では2024年10月時点で60か国がトランス脂肪酸に関する何らかの規制を導入しています。カナダ、シンガポール、タイ、台湾、香港なども部分水素添加油脂の使用規制や表示義務を実施済みです。韓国や中国もトランス脂肪酸含有量の表示を義務づけています。

日本:表示義務なし、基準値なし

では日本はどうかというと、食品中のトランス脂肪酸について、表示の義務も濃度に関する基準値もありません。農林水産省は明確にこう述べています。

日本人は大丈夫なのか?── データで見る実態

平均的には基準を大きく下回っている

食品安全委員会が2012年3月に公表したリスク評価によると、日本人のトランス脂肪酸の平均的な摂取量は総エネルギー摂取量の約0.3%。WHOの勧告する上限(1%)を大きく下回っています。摂取量が多い上位5%の人でも0.70%(男性)、0.75%(女性)と、やはり1%未満です(参照:厚生労働省「トランス脂肪酸に関するQ&A」)。

厚生労働省もこう結論しています。

「トランス脂肪酸の摂取量については、日本人の大多数がWHOの勧告(目標)基準である、総エネルギー摂取量の1%を下回っており、通常の食生活では健康への影響は小さいと考えられます。」(厚生労働省「トランス脂肪酸に関するQ&A」)

でも「大丈夫」と安心しきれない理由

ただ、注意書きもあります。食品安全委員会の評価では「脂質に偏った食事をしている個人においては、トランス脂肪酸摂取量のエネルギー比が1%を超えていることがあると考えられるため、留意する必要がある」と明記されています(参照:農林水産省「トランス脂肪酸の摂取と健康への影響」)。

また、厚生労働省の令和5年(2023年)の調査では、日本人の成人女性の約46.4%で脂肪エネルギー比率が目標量(20%以上30%未満)を超えていることがわかっています(参照:農林水産省「すぐにわかるトランス脂肪酸」)。脂質全体の摂取が多い人は、それに比例してトランス脂肪酸の摂取も多くなるわけです。

さらに、企業努力によってマーガリンやショートニングのトランス脂肪酸含有量は大幅に減少していますが(農林水産省の調査では、マーガリンは2006年の100gあたり8.7gから2014年には0.99gに低下。ショートニングはさらに大きく低減)、一部の製品には依然として高い含有量のものが存在する可能性は否定されていません。日本には表示義務がないため、消費者が個別の商品のトランス脂肪酸量を正確に知る手段が限られているのが現状です。

どんな食品に含まれやすいのか

トランス脂肪酸が含まれやすい食品を、発生ルート別に整理します。

水素添加由来(工業的に生成)

マーガリン・ファットスプレッド …… かつてはトランス脂肪酸の代表格とされていましたが、日本の大手メーカーは近年、大幅な低減に取り組んでいます。とはいえ製品によって差があり、特に業務用製品や安価な輸入品は含有量が高い場合があります。

ショートニング …… パンやクッキー、パイ生地のサクサクとした食感を出すために使われる固形油脂です。こちらも大手製造元は低減を進めていますが、菓子パン、焼き菓子、ドーナツなどの原材料として幅広く使われています。

それらを使った加工食品 …… クッキー、ビスケット、パイ、ドーナツ、菓子パン、ケーキ、スナック菓子、フライドポテトなど。原材料欄に「マーガリン」「ショートニング」「植物油脂(部分水素添加)」「ファットスプレッド」と書かれていたら、トランス脂肪酸が含まれている可能性があります。

高温精製由来

サラダ油などの精製植物油 …… 製造工程の高温脱臭処理で微量のトランス脂肪酸が生じます。含有量はごくわずかですが、毎日大量に使えば積み重なります。

天然由来

牛肉・羊肉・バター・チーズ・牛乳 …… 反芻動物由来の天然トランス脂肪酸。量は少なく、通常の食事量であれば大きなリスクにはならないと現時点では考えられています。

実践編──日常でトランス脂肪酸を減らす5つのポイント

1. 原材料表示を「読む習慣」をつける

日本にはトランス脂肪酸の含有量表示義務はありませんが、原材料欄は必ず表示されています。「ショートニング」「マーガリン」「ファットスプレッド」「植物油脂」という文字が上位に来ている製品は、トランス脂肪酸を多く含む可能性があります。原材料は使用量の多い順に記載されるルールなので、これらが先頭付近にあるほど、含有量が多い傾向にあると考えてよいでしょう。

2. 「トランス脂肪酸低減」と書いてある商品を選ぶ

表示義務はないものの、自主的にトランス脂肪酸含有量を公表しているメーカーも増えています。「トランス脂肪酸○g」「トランスファットフリー」などの表記がある製品は、それだけ企業が低減に取り組んでいるサインです。

3. 揚げ物とスナック菓子の頻度を意識する

フライドポテト、ドーナツ、スナック菓子、市販の揚げ菓子は、ショートニングや業務用フライ油を使っていることが多く、トランス脂肪酸を含みやすい食品群です。「毎日食べる」のと「週に1〜2回」では蓄積量がまったく違います。ゼロにする必要はありませんが、頻度を少し減らすだけでも効果があります。

4. 調理油は「加熱に強い油」を選ぶ

家庭の調理で使う油は、オリーブオイルや菜種油(キャノーラ油)などオレイン酸の多い油がおすすめです。高温での酸化が比較的少なく、トランス脂肪酸の発生も抑えやすいとされています。また、揚げ油を何度も繰り返し使うと油が劣化し、トランス脂肪酸が増える可能性があるため、使いまわしの回数にも気を配りたいところです。

5. トランス脂肪酸だけに囚われすぎない

最後にとても大事なポイント。農林水産省は繰り返しこう訴えています。

「農林水産省は、健やかな食生活を送るためには、トランス脂肪酸という食品中の一成分だけに着目するのではなく、現状において日本人がとりすぎの傾向にあり、生活習慣病のリスクを高めることが指摘されている脂質そのものや塩分を控えることを優先すべきと考えています。」(農林水産省「すぐにわかるトランス脂肪酸」)

「トランス脂肪酸フリー」の表示があっても、飽和脂肪酸や塩分が大量に含まれていれば健康的とは言えません。脂質全体の量を適切に保ち、いろいろな食品をバランスよく食べること。これが結局いちばん大切な「避け方」です。

まとめ

トランス脂肪酸とは …… 不飽和脂肪酸の二重結合の形が「トランス型」になった脂肪酸の総称。天然にも微量存在するが、主に問題になるのは油脂の加工(水素添加)や精製(高温処理)で工業的に生じるもの。

なぜ体に悪いのか …… LDL(悪玉)コレステロールを増やし、HDL(善玉)コレステロールを減らすことで、心筋梗塞などの冠動脈性心疾患のリスクを高める。WHOや複数の国際的リスク評価で「確実な証拠がある」とされている。

WHOの勧告 …… トランス脂肪酸の摂取量を総エネルギーの1%未満に。日本人の場合、1日あたり約2g未満が目安。

日本人の平均摂取量 …… 総エネルギーの約0.3%で、WHO基準を大きく下回っている。ただし脂質の多い食事が続く人は1%を超える可能性があり、注意が必要。

日本の規制 …… 表示義務なし、基準値なし。企業の自主的な低減に委ねられている状態。海外では60か国以上が何らかの規制を導入済み。

日常でできること …… 原材料表示を見る習慣、揚げ物・スナックの頻度を意識する、調理油を見直す、そしてトランス脂肪酸だけでなく脂質全体と塩分の摂りすぎに気をつける。

おわりに

「日本人の平均では問題ない」── これは統計上の事実です。でも統計の「平均」は、一人ひとりの食卓の話ではありません。菓子パンを毎朝食べる人、スナック菓子が日課の人、外食やお惣菜が多い人は、その「平均」からはみ出している可能性があります。

怖がりすぎる必要はありませんが、何が含まれているのかを知ったうえで選ぶのと、知らないまま選ぶのでは、積み重ねが変わってきます。日本には表示義務がないぶん、自分で原材料欄を見る力が少しだけ求められる──そういう国に私たちは暮らしているということを、頭の片隅に置いていただければと思います。

参照資料

本記事は、以下の公的機関の情報をもとに執筆しています。

農林水産省「すぐにわかるトランス脂肪酸」(2025年5月更新) …… トランス脂肪酸の基礎知識、日本の対応状況について。URL:https://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/trans_fat/t_wakaru/

農林水産省「トランス脂肪酸の摂取と健康への影響」(2025年1月更新) …… WHO/FAO合同専門家会合、EFSA、食品安全委員会等の各国リスク評価の詳細について。URL:https://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/trans_fat/t_eikyou/trans_eikyou.html

農林水産省「トランス脂肪酸に関する各国・地域の規制状況」(2025年10月更新) …… アメリカ、EU、アジア各国の規制内容について。URL:https://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/trans_fat/overseas/overseas.html

厚生労働省「トランス脂肪酸に関するQ&A」 …… 日本人の摂取量実態、食品安全委員会の評価結論について。URL:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000091319.html

内閣府 食品安全委員会「食品に含まれるトランス脂肪酸に係る食品健康影響評価」(2012年3月) …… 日本人のリスク評価の原典。

食環境衛生研究所「トランス脂肪酸含有量の変化」(2025年10月) …… マーガリン・ショートニングの含有量経年変化データについて。

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